サービス労働
あまり仕事をしない私が昨日は5件もヘルパーの訪問をした。休んでいる人が何人かいたからだった。
朝8時に事務所に着き、夕方6時半に事務所を出る。10時間30分の拘束時間。でも、支払われる賃金は、7時間30分ぶんしかない。あとの3時間は何をしていたのか。それは車での移動時間や書類を書いている時間だったり、サービス労働時間なのだ。
(私は、登録ヘルパーと言って、基本的に派遣されたお宅で仕事した時間分しか賃金は出ない。ただし、今の事業所では30分ぶんが書類整理代として加算される。)
ちなみに、お昼は10時半に20分だけ椅子に座って菓子パン1個とコーヒーですませた。その後はお昼を食べる時間がなかったからだが、10時間30分のうち、お茶を飲んだのはこのときだけ、トイレにもあまりいけないのがつらいところだ。だから、賃金のもらえない3時間を遊んで過ごしたわけではない。20分パンを食べている間も。帰ってきたヘルパーさんから「具合悪そう」「冷蔵庫に煮物残っているから」と情報交換をしている。
サービス労働とは、利用者さんの利用時間がオーバーした分の労働のこと。仕事が終わっても、話が止まらなくて帰してくれない利用者さんは多いが、これははずして、純粋に仕事が終わらなくて利用時間がオーバーする場合がある。
あるお宅では、認知症が進んで便失禁が毎日のこと。その便を部屋中にまきちらしたり、ゴミ箱やへんなところに便やおしっこをしていることがある。食事を作るために訪問しても、他の仕事に追われて時間はオーバーになる。私は週1回しかそのお宅にはいかないが、便失禁にあわなくてもいつも10分、15分はオーバーする。しかし、このあいだ便の処理ほかのもろもろあって40分以上もオーバーした。さすがに主任に訴えたが、
「ごめんね。あの方限度額いっぱいいっぱいなのよ」
と言われた。わかっていたことではあるが、おかしい。
限度額とは、介護保険でカバーできる限度額ということ。それ以上ヘルパーを利用した時間分の人件費は介護保険では出してくれない。その分は、利用者の自己負担か、会社の負担になる。でも誰も負担したくない。書類上も面倒になるのだと思う。だから、まるくおさめるにはヘルパーが我慢しなくていけない。
いったいヘルパーのそういうサービス労働をあわせたら、どれだけの金額になるだろうか。
介護保険の裏にあるシャドウ・ワークというものを平気で押付けられるのも、主婦の仕事だからではないか。2重の意味で主婦の仕事なのだ。食べるに困っていない主婦の片手間のパートであり、家事仕事は「主婦の方はベテランですし、皆さん思いやりのある方たちだから」というわけである。
これをあまり黙っていちゃいけないと思う。でも、職場で「おかしいと思う」と言ってみたら、先輩が「宮野さん、あまり余計なこと言わないほうがいいよ」とたしなめられた。上から睨まれて仕事来なくなったり、きつい仕事ばかりまわされても嫌だからだ。
食べるに困らない主婦のパートでも、人それぞれパートをしている訳がある。何万かの収入が必要なのだ。私のように勉強しているなんていうお気楽主婦とは違う事情がある。
だからこそ、賃金の安さに腹が立つ。毎日のようにフルで稼働して、難しい利用者さんに行き、お昼は車の中でおにぎりを食べているヘルパーさんたちの正当な賃金を要求しなくてはと思う。
問題はおおもとの国の考え方だ。高齢者とその家族が悪いわけではない。
例に挙げた便失禁する男性とその奥さん(彼女も病気がある)は、とても感じのいい人で、「ヘルパーさんがいるから生きていられる」とか言ってくれるし、利用者さんが難しいと言っても体や頭の老化や病気のためで本人のせいではない。だから、ヘルパーはがんばるのだが、ヘルパーに負担とボランティア精神を押付ける制度が問題なのだ。
(なんだか、そのうち病気になるのや老化で動けなくなるのも自己責任だと言われて見捨てられるのではないかと不安になる。予防につとめなかった人が悪いとね。)
前の事業所でも思ったことだが、不公平な制度の下ではいい人材が育たない。いい人材は疲れ果ててしまうし、要領のいい人は手を抜くことで不公平感をなくそうとしてしまう。介護労働者のボランティア精神だけに頼るのはもう限界があると思いながら、仕事をしている。
さて、今日も朝いちで利用者さんを病院に連れて行かなくてはいけないので、このへんでおしまい。通院介助は見た目は楽そうだが、けっこうお医者さんの間に立って話を伝え合うのも難しいし、待っている間に耳の遠い利用者さんと大声で話しているのも疲れるのだ。
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コメント
なんだか女性差別がこのような形で再生産されているのだなあと読んでいて暗然としました。しかも、あからさまではなく屈折した形なのでそれが女性差別、主婦差別だということは訴えにくい。なんだか悔しいよなーと思ってしまいました。
投稿: discour | 2006年11月15日 (水) 09時51分
上野千鶴子さんが、ヘルパーの地位を上げるためには賃金を上げろと、どこかで書いていました。しかし、その逆です。今の事業書は当初時給1000円だったのが、何年か前に850円と下がったそうです。ヘルパーの給料を押さえてもうけを出そうとしているようです。どこでも実情がよくありません。時給1000円でも交通費はいっさい出なくて、一時間もかかるところに自分の車で行かされたりして、ガソリン代を引けば「時給700円よ」と言うところもあります。
社会福祉協議会でも社会福祉法人でもなんか天下りのぱっとしない男性が所長になっています。きっとすごくいい給料をもらっていることでしょう。
前の事業所の所長が月1回の定例会議で、
「介護の仕事は、医者と教育者と並ぶ尊い仕事であるから、みなさん誇りを持って仕事するように」
と言うお話がありました。
心の中で「ふん、何言ってんだ」と思ったのは私だけではないと思います。賃金のことをとやかく言うのは卑しいという日本人の奥ゆかしさがあるのか、あからさまに話ができないのですが、賃金が下がればまた地位も下がっていくという感じはします。
むずかしいな。一抜けたというふうにしてしまうのは簡単だけど、このままにしておいてはいけないと思っています。
投稿: 宮野胡桃 | 2006年11月16日 (木) 05時11分
コメントありがとうございます。
ヘルパーさんの時給てっきり1000円だと思ってました。下がっていたのでしたか、、。結局、登録ヘルパーは、主婦パートという扱いをしておいて、「誇りを持て」ってないよね。
天下りの男たちはしっかり守られて高い給料をもらえる構図、どうにかしたい。やっぱ、政権交代かな(笑)
以前、生協の本部にたまたま行ったときに、生協幹部の男性たちはタバコすって事務作業して安定した収入を得ているのを目の当たりにしたことがあった。組合員の女性たちをボランティアで仕事させておいてぬくぬくと・・と悔しくなって脱退したのを思い出しました。
胡桃さんのリベンジ、密やかに応援してます。
投稿: discour | 2006年11月16日 (木) 19時53分
リベンジしたいけど、物知らないので勉強しなくちゃと思っています・・・。
投稿: 宮野胡桃 | 2006年11月17日 (金) 03時37分