賞味期限
不二家問題で賞味期限が問題になっているが、普段自分の家の買い物では、賞味期限は気にしない。大食い息子たちがいるために買ってもすぐになくなる。製造の新しい牛乳なんて買ったって、明日にはないのだから、買い物の時に賞味期限を見たりしない。
でも、ヘルパーの仕事で買い物をするときは、賞味期限を気にする。お豆腐でも納豆、ヨーグルトでも、とにかく棚の奥のほうから新しいものを取り出す。利用者さんがそうしろというのではないが、高齢者は食べる量が少ないし、一人暮らしがほとんどなので、なかなか食べきれないからだ。
でも、高齢者の方はあまり賞味期限を気にしない。賞味期限を過ぎても平気で食べる。捨てるなんて「もったいない」ことなのだ。でも、やはり手が出なくて、冷蔵庫の中は腐りかけた物で埋まっていく。その、もう食べれないものを利用者さんに納得してもらって捨てるのも私たちの仕事だ。「あらら、このキャベツはもう料理できないですよ」「牛乳から変な匂いがする」と大げさに驚き、利用者さんが考えたりしないようにゴミ箱に入れる。
それでも、「大丈夫だ」と言い張る利用者さんもいる。「玉子焼き」というリクエストだが、卵の賞味期限がとっくに過ぎている。でも、利用者さんは「冷蔵庫に入っているんだから大丈夫」「私の今までの経験から大丈夫」と言ってきかない。たぶん大丈夫なんだろうと、作ったこともあった。作りながら、食中毒になりませんようにと祈った。その後、お腹も痛くしなかったから、利用者さんは「私の言うとおりだろ」と思っているだろう。そのことを先輩に相談したら、「卵を割って見れば、悪くなっているかどうかわかるでしょう」と言う。そうなのだろうか。でも、食中毒予防のためにも「賞味期限が過ぎたものは使わない」という規則を作って、利用者さんにもわかってもらうようにしたほうがいいような気がする。
だいたい、高齢者の方は冷蔵庫を過信している。しかし、冷蔵庫の中というのは個人的な場所でもある。子供に「よその家の冷蔵庫を勝手に開けたらいけない」と注意するように、人の冷蔵庫の中を勝手にいじるのは気がひける。でも、どうしても許せない冷蔵庫があった。きれいな台所なのに、冷蔵庫は物が詰まりすぎで、開けるたびに嫌な匂いがした。夏に、利用者さんに「食中毒が心配だから、一度大掃除をしたい」と申し出て、納得してもらい。利用者さん立会いのもと大掃除をする。
いつのだかわからないポテトサラダだったようなかたまり、芋天の残り半分、腐った漬け物(臭いの元凶)などがでてくるでてくる。「これは捨てますよ」といちいち確認してもらって捨てる。もちろん「それはまだ捨てない」と言われることもあるが、冷蔵庫の中を掃除し、消毒し、きれいになって利用者さんも喜んでいた。これからは「詰め込みすぎない」と誓い、わりときれいに使っている。
こういう冷蔵庫の整理に手や口が出せるのは一人暮らしの利用者さんの場合だ。家族と暮らしている方なら、余計な口出しはしてはいけない。整理癖がうずいても見ない振りをするしかない。
また、利用者さんはヘルパーに何かをあげたがる。でも、物をもらうことやお茶を飲むことも本当は禁止である。ただ、飴玉2,3個とか、何かを手渡したい人がいて、「子供じゃないんだから」と思っても受けとることもある。
しかし、この手渡される物も気をつけないといけない。「車の中で食べて」と仏壇にあったまんじゅうを1個手の中に置いてくれる。しかし、いったいいつから置いてあるまんじゅうだかわからない。この間は、帰り際ヤクルトを2本、ポケットにつっこまれた。後で見たら、賞味期限が去年だった。それでも大丈夫なのかと匂いをかいだら、すえた臭いがした。これを利用者さんは飲んでいないだろうかと心配する。でも、飲まないからくれたのかもしれない。お菓子の袋を開け、半分ぐらい食べて飽きたのか、ヘルパーに渡す人もいる。主任は、「本当に失礼よね。でも、自分では捨てられないから、代わりに捨てると思ってそれは持って来ていい」という。それにね。80、90代の高齢者から見れば、中年のヘルパーだって子供みたいなものなのよ。自分の子供たちも60代なのだから、40代なんて若く見える。子供になにかおやつをあげたいというのは、これはお年寄りの習性なのだ。山に住んでいたときも、お年よりはうちの子に必ず何かお菓子を握らせる。村にひとつある雑貨屋さんに買い物へ行っても、そこのおばさんは店のお菓子をただで子供に握らせる。こちらは売り物なのにと遠慮するが、とにかく何か子供にあげたいのだ。ただ、賞味期限を気にしないだけで、悪気はないのだった。
先日は、帰り際にコップに牛乳を注いでくれ、渡される。「牛乳が配達されるけど、あまってしまうから飲んでいって」と言われた。目の前に差し出され断りきれなくて、牛乳の一気飲みをする。私は牛乳を飲んでお腹を壊す体質ではない。ところが、事務所に帰って書類を書いていたら、胸がむかむかしてきた。「牛乳飲まされた」と言ったら、先輩ヘルパーが「賞味期限切れていたんじゃないの」と言う。だって、コップにつがれて確認できなかったし、「これ大丈夫ですか」と失礼なこと聞けない。その午後、久しぶりにお腹が痛くなって大変な思いをするはめになった。やはり、賞味期限は確認しなければ、牛乳を断る勇気を持たないといけないと反省する。